辞書凡例

『新明解国語辞典 第七版』アクセント表示について

一. アクセントとは何か

1. 単語の決まりである下げるところを数字で示す

日本語のアクセント(東京通用アクセント)とは、単語のどこで下げるかに関する決まりである。その下げる位置を本辞典では前から数えた数字で示した。
三拍語を例に取ると、これが意味しているのは次のことである。ツバキ1 は最初のツの後で下げる、ツツジ2 は二番目のツの後で下げる、ツボミ3 は最後のミの後にことば(ガ、ヲ、カラ、ヒライタなど)が続くときに下げて発音する決まりになっている。それに対して、スミレ0 は、その中でも、次にことばが続いても、下げずに発音することが決まっていることを表わす(ここでは0 は下げるところがないという意味であって、スの前のゼロ番目で下げる意味ではないことに注意)。
0 型(スミレ)と3 型(ツボミ)は、単語の後に続くことばを下げないか下げるかの違いなので、続くことばがない単独の発音では、事実上同じになる。このことは、0 型と2拍以上の語末型に当てはまる。
その数字のところで下げなければならないということは、それ以外のところで下げてはいけないことも意味する。たとえばオカシ(お菓子)2 は、カからシにかけて下げれば正しい発音になるが、1 型としてオからカにかけて下げると人名の「岡氏」に、どこでも下げずに0 型で発音すると「お貸し」の意味になる。シの後で下げる3 型で言うと、それに当たる単語がないので意味不明になる。どれも、意図した「お菓子」の意味が伝わらないので、間違ったアクセントとなってしまう。あるいは、文脈から意味が分かったとしても、標準的なアクセント(の話し手)ではないことが伝わってしまう。これが、単語について決まっている下げに関する決まりという意味である。
◎アクセントの型の種類は、単語の拍数による。一拍語では二種類の型しかないのが五拍語には六種類の型がある。
両者の間には、 a=n+1 (ただし、aはアクセントの型の種類の数、nは拍数)の関係が見られる。
◎アクセントを目で見てわかる形に示した。は、その単語に続くことば(助詞・助動詞など)が上がることを示し、は、同じく下がること、は下がらずにそのまま続くことを示す。
◎いずれも表中の単語が最初にくるときのものである。詳しくは解説本文を参照。
◎カタカナは、仮名遣いによる表記ではなく、音(韻)による表記によった。
◎それぞれの例語は、ここに示したアクセント型しか持たないということではない。例えば、クサカリは4 でもあり、3 でもある。

2. 単語の決まりではない上げるところは示さない

下げるところと異なり、上げるところは単語について決まっていないので、アクセントとして辞書に示すことはしない。型一覧の表記では、あたかも上げるところまで単語ごとに定まっているように見える。しかし、
から分かるように、一拍目から二拍目への上げは個別の単語とも文節とも無関係である。これらの一まとまりの中の最初に来た単語に生じているもので、それ以外の位置では同じ単語でもこの上げは出て来ていない。スミレのスからミへの上げは、それを単独で発音したため、つまりスミレが最初に位置しているために現われたもので、スミレという単語にいつも決まって出てくる性質ではない。
さらに、
を比べると、最初に一回しか上げがない(d)は全体が一まとまりになっているのに対して、スからミへ上げた(e)は、スミレの前で切れ目を感じ、他でもないスミレの部分が意味的にはっきり打ち出されている。ここから、上げは意味に関係する一種のイントネーションと位置付けられる。文頭はそのイントネーションが最も普通に付与されるところである。単語を単独で発音すると文頭で発音したことになり、そこに上げが与えられるのである。
そして、アオイスミレ(f)などまで含めた、これらすべてのスミレの例に共通しているのは、(a)のような高さの固定した型ではなく、ス、ミ、レ、そしてその直後まで、どこでも下がることがないという性質なのであって、それが0 型の意味である。
ツツジ、ツボミも、上げについては同じことが当てはまる。ツバキ1 (g)だけは上がる位置が一拍目にずれているが、バの後が単語としての下げによって占められているために起こったもので、コノツバキ(h)になると通常の上げの位置に戻る。いずれの場合も一定しているのは、ツバキ1 、ツツジ2 、ツボミ3 の下がる位置だけである。
なお、コーリ0 、トーリ3 、ハンシャ0 、カイシャ0 など、二拍目がのばす音、はねる音、アイ/オイなどの後半のイという独立性の弱い拍の場合は、(i)のように普通は一拍目から高く発音する。一方、さらに弱いつまる音が二拍目にくるバッタ0 などでは、(j)のように三拍目から高くするのが一般的である。これらの弱い拍は、その直後で下げることも通常ない。○ー○、○ッ○などに2 型は欠けている。

3. 文の発音

本辞典を引いて単語のアクセントが分かった後、それらを並べた文をどう発音するか。他に特に意味を浮き立たせたい部分がない場合は、文の最初の単語で上げて、あとは数字の位置で下げ、0 も含めてそれ以外では下げずにそのまま続けるだけで済む。文中に0 以外の数字が二つ以上出てきても、(上げずに)その都度下げるだけである。
音声は高いところと低いところの二段で成り立っているものではなく、何度にもわたって下げることができ、聞き取ることも可能である。キレイナ1 ツツジオ2 ミタ1 では、(k)のようにキで上げてその後三回指定の位置で下げるだけである。もしもツツジに伝えたいポイントがある場合は、(l)のようにツから次のツにかけて再度上げればよい。
(細かいことを言えば、助詞類のアクセントや活用形のアクセントも必要であるが、他の専書に譲る。)

4. 型の種類

さて、この「アクセントの型一覧」を見ると分かるように、一拍語には二種類、二拍語には三種類、というように、型の数は拍数(n個)よりも一つ(0 型)多い、という関係になっている。新語がどんなに増えようと、すべての単語がn+1の限られた型のどれかに収まっている。その代わり、一つの型にはたくさんの単語が属していることになる。一拍語の1 型には「絵、木、字、手、目」など、0 型には「柄、気、痔、血、戸」などがある。
その数は型ごとに均等分配されておらず、単語の長さによってばらつきがある。今見た一拍語は、1 型の方がかなり多い。二拍語も同様である。三拍語は0 型、次いで1 型が多く、四拍語は0 型、五拍語以上は(複合語になりその規則のために)-3 型(ヤエザクラ3 、ヨシノザクラ4 などをまとめ、うしろから数えて三拍目の後で下がる型としてこう書く)が主流となる。五拍語以上では中央寄りに下げが現われる傾向が顕著で、両端の1 型と語末型(-1 型)は稀である。

5. 一つの単語に複数のアクセント

どの単語も一定の型に属するということは、一つの単語が一つのアクセントしか持たないという意味ではない。「型一覧」で2 型としたツツジは0 型も持つ。他の例では、「雷」は古くから4 型と3 型が併存していたが、近年はそれに0 型も加わり、計三種類のアクセントが行われている。そのどれかが非標準的(非東京的)と見なされることはない。しかし、1 型と2 型は存在しない。一定の認められる範囲があり、本辞典はその範囲の型を示すことを目指した(二を参照)。

6. 二単位形と切れ目

「近代五種競技」は、一つの単位で7 型にも、「近代」と「五種競技」の二つの単位に分かれて1-3 型にもなる。このような二単位以上の組み合わせは「-」でつないで示す。
中には、意味・表記の切れ目とアクセントの単位とが一致しない例もある。「安土桃山時代」は、「安土・桃山」の「時代」であるにもかかわらず、最後の「時代」はアクセントの面で独立できずに必ず直前の単語と結びつくため、「安土1 」-「桃山時代5 」となる。

7. アクセント単位の認定

関連して、アクセント単位について第六版まで(あるいは他のアクセント辞典)の認定を変えた部分がある。「挙国一致1 」「挙動不審0 」などとあったのを、(「一致、不審」の中で上げがない場合でも)それぞれ二単位形の1 -0 型、0 -0 型に改めた。「虚心坦懐1 -0 1 0 」とあったところも、「1 -0 0 -0 」とした。
その判断に際しては、内部の意味構造、前部・後部の各要素の単独のアクセント型、そしてそれらの複合語アクセント規則の適用外となっていることを考慮した。
ただし、「疑心暗鬼」のように、前部は0 1 、後部は1 型の場合、1 -1 型の組み合わせは問題ないが、もう一つが二単位の0 -1 型なのか一単位の4 型なのかは音声上も複合語規則の点からも判断がつかない。ここでは内部の意味構造を考慮して0 -1 型としたが、項目によっては必ずしも統一が取れていない可能性が残る。しかし、いずれにしても発音そのものは同じである。

8. 複合名詞のアクセント規則

この辞典の見出し語数は8万語に近い。見出し語以外にも多数の項目を含む。人はそのアクセントをすべて暗記しているのであろうか。そうではない。新語を作ることができるので、そもそも単語全体を上げ尽くすことが不可能である。にもかかわらず、実は、いくつかの仕組みがあって、それによりかなりの部分はアクセントが予測できるようになっている。その中で最も大きな働きをしているのが複合名詞アクセント規則である。この世に存在しない「トンセクア辞典」を初めて見ても6 型一つに決まるのはこの規則による。
その概略を述べる。まず、複合名詞を二分した前部要素と後部要素のどちらかが三拍以上の場合に規則性が現われる(二拍同士は除かれる)。五拍以上なら問題なく条件を満たす。そしてそのアクセントを支配するのは後部要素である。そのため、前部の長さに左右されないマイナス表記(うしろから数える方式)が便利となる。とらえやすい後部三、四拍で例示する。
後部が三拍の複合名詞は-3 型になる。後部単独形が2 型の場合に限り、元の位置を保つ-2 型にもなる。
サンショクスミレ5 カンツバキ3 ウミツボミ3 [以上-3]、 ドーダンツツジ56
後部が四拍で0 1 4 3 型の複合名詞は-4 型になる。3 型は位置を保つ-2 型にも。2 型は元の位置を保ち-3 型になる。
デンシコクバン4(黒板0)、 エゾタンポポ3(蒲公英1)、 アンゼンカミソリ5(剃刀430)、 オーボジョーケン4(条件3) [以上-4]、 コーチョーセンセイ7(先生3) [-2]、 ヤマトナデシコ5(撫子2) [-3]
二. 東京通用アクセント

1. 変化と変異

本辞典は、これまでの版の流れを承けて、東京語を基礎とする標準的なアクセントを採用するように努めた。しかしながら、一口に東京語と言っても、その実態は単一ではない。当然のことながら、年齢差(世代差)、地域差、個人差がある。現代の情報化社会においては、その事物や事象が生活圏の中にあって子供のころに周りの発音を聞いて身に付けた単語の他に、文字を通して知識として習得して後から自分の頭の中でアクセントを付けたもの、テレビなどのマスコミ放送を通して入り続けているものも膨大な数に上る。語彙の面でそれらが複雑に絡み合う。人の面でも、東京は東京生え抜きの人だけが住むところではなく、その数をはるかに上回る他県人がその中に住みながらダイナミックに影響を与え合っている大都市である。そのアクセントの変化と変異も大きいであろうことは予測できる。

2. 近年の変化とそれに対する採否方針

実際、近年、アクセント体系は変わらないものの、その内部の個々の単語アクセントの変動は大きなものがある。動詞・形容詞は後で取り上げるとしてここでは名詞を見ると、特に若い世代における三拍以上、とりわけ四拍語の0 型の増加が顕著である。外来語ではそれがことさら目につき、しばしば話題になる。本辞典の第四版から第六版にかけても若い世代のアクセントが採用されているが、その後の若い世代が多用する単語については、そのアクセントも今後の動向を見る上で不可欠と考えて採用するようにした。
それと同時に、三拍以上で語末の後を下げる型(-1 型)は劣勢になりつつあるが、古い世代においていまだ健在だと認められるものはこれを積極的に補った。辞書に記載(認知)されなくなることによって、その忘却がさらに進むことを恐れたためである。
その一方で、かなりの高年層のものになったと見られる五拍語以上の1 型のアカトンボやナカセンドーなどまでの追加採用は見合わせた。

3. 複数アクセントの配列順

複数あるアクセントの配列順は、数字の大きいものが先に来ている場合は何らかの優先的な意味をもたせてあるが(その理由はさまざま)、それ以外の配列については、今回は必ずしもこだわらなかった。
三. 用言のアクセント

一で述べた体系はすべての単語を含むものなので、用言(動詞と形容詞)のアクセントもその中に納まるが、同時に、用言には名詞とは違う独自の特徴もある。それは型の数が少なく、基本的に二種類に納まるという点である。変化の方向も異なる。

1. 動詞

終止形では次のようになっている。基本的に0 型と-2 型(うしろから二番目で下がる型)の二つである(ただし、活用形は別)。
売ル0 アガル0 ハジメル0 ブラサガル0
取ル1 サガル2 ナガレル3 ココロザス4

2. 動詞のアクセント認定

第四版から第六版までは「売ルというのは売ルことである」という枠で調べて、前者を終止形、後者を連体形のアクセントと認定し、「2 0 0 」(終止形:連体形)のように表記していた。しかしながら、前者の2 型は引用の「と」の影響によるものと見て、今回は終止形も連体形も同じく0 型と認定し直した。
同様の理由で、「おまけに4 0 」「かさねて4 0 」などの接続詞・副詞のアクセント認定も一部変更した。「と」など助詞・助動詞が続く形ではなく、直接用言を修飾する場合を基準に認定し、この例の場合はともに0 型のみとした。

3. 動詞のアクセント変化

動詞のアクセント変化で目立つのは、0 型から下げのある型(-2 型)に向かう動きである。話しことばでの使用頻度が低い単語によく見られる変化であるが、複合動詞においては世代差として組織的に起こっている。
古い世代では、前部に立つ要素の単独のアクセントが複合動詞では反転する(0 0 以外に、0 以外は0 に)という興味深い現象が見られるが、後の世代では、前部要素とは無関係にすべてが下がる型(-2 型)になる。その結果、トリダス、トリハジメルは0 型から-2 型へと変化している。「取り上げる、取り壊す、取り散らかす」なども同様である。
売ル0→ウリダス3、ウリハジメル5
  取ル1→トリダス0、トリハジメル0
売ル0→ウリダス3、ウリハジメル5
  取ル1→トリダス3、トリハジメル5
現在は単一化した方が優勢なので、今版では「取り出す」などは3 0 のように表示した。

4. 動詞からの派生名詞

動詞とそれから派生した名詞との間には次の規則が認められる。動詞が0 型ならその派生名詞も0 型に、動詞が0 型以外であればその派生名詞は語末に下げがくる(-1 型)。
行ク0→行キ0 遊ブ0→遊ビ0 始メル0→始メ0 など。
読ム1→読ミ2 走ル2→走リ3 喜ブ3→喜ビ4 など。
ただし、二の2で述べた変化により、「喜び」は0 型が増えつつある。
一方で、複合動詞に由来する名詞は、複合名詞のアクセントが何であれ、すべて0 型になる。相撲の決まり手には、「押し出し、切り返し、寄り切り、うっちゃり<うちやる」などこの型が多く見られる。
売リ出ス3→売リ出シ0 取リ出ス03→取リ出シ0
使イ込ム4→使イ込ミ0 走リ込ム04→走リ込ミ0

5. 形容詞

やはり0 型と-2 型の二つが基本である。
アカイ0 カナシイ0 ムズカシイ0
ヨイ1 シロイ2 タノシイ3 オモシロイ4

6. 形容詞のアクセント変化

しかし、形容詞の型の区別は失われかけている。それは、アカイ2 =シロイ2 、カナシイ3 =タノシイ3 のように終止形の0 型が消えて他方に合流する変化で、すでに一部の高年層でも生じ、中年層ではこの区別がほぼなくなっている。一方で、連体形は0 型で残る傾向があり、そこでは逆にタノシイ3 などが0 型になることさえ見られる。あたかも終止形と連体形でアクセントが分裂するかのような様相である。
この変化は、厚イ0 と熱イ2 のような同音語で一層進み、終止形ではともに2 型、連体形ではともに0 型になって、本来なら「熱イ2 涙を1 流す」のつもりが、古い世代には「厚い0 涙を1 流す」と聞こえる発音がアナウンサーの口から発せられることは、今や珍しくない。

7. 形容詞のアクセントに対する本辞典の規範性

近い将来に形容詞のアクセントの区別が失われることはもはや疑いないが、それだけに本辞典ではあえて規範の立場から「赤い、浅い、厚い、甘い、薄い、遅い、重い、固い、軽い、暗い、…明るい、危ない、怪しい、重たい、冷たい、優しい、…難しい、…」の基本的な単語には0 型のみを表示した。形容詞でも終止形と連体形の区別も設けず、第六版までの「赤い3 0 2 0 」などは廃して0 型のみとした。「おめでたい、重苦しい」などには0 型も併記した。
(アクセントの追加・修正は、組織的な調査に基づくものではなく、一部は東京人に確認をしたが、他は担当者の体験と関連論文および他のアクセント辞典の記載を参考に判断した。)