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連載「日本のジェスチャー・世界のジェスチャー」 第18回


連載 「日本のジェスチャー・世界のジェスチャー」 東山 安子 第18回 日本人に特徴的なジェスチャー(2)「手へさき」


   今回は、日本人に特徴的なジェスチャーのふたつめとして、人の前を通るときに「ちょっと失礼」という意味で片手を上下させるジェスチャーを取り上げます。

   モリス(※第1回参照)は、このジェスチャーが水を切り分けて進む船の舳先(船体の前方の部分)のように見えることから「手へさき」(HAND 'PROW')という名前をつけ、日本で使われるジェスチャーとして著書で紹介しています。

   モリスの解説によれば、「遺憾ながら取らざるをえない道筋を示して、他の人のスペースにまさに侵入しようとしていることを詫びる。人の前を横切ったり、二人の間を通ったり、普通よりも接近したりと、相手に失礼なやりかたで通らざるをえないときに使われる。通常は、軽いお辞儀を伴う」とあります。

   日本にはこの「手へさき」のほかにも、手を身体の前に立てたり、自分に対して垂直に構えるジェスチャーがいろいろありますが、欧米ではあまり見かけられません。たとえば、第6回でお話しした「顔の前で片手を立てて手を左右に振るジェスチャー」も、手のひらを相手に向けて左右に振れば否定のジェスチャーとして読み取れるのに、日本人は相手から見て手のひらを縦にして振るので意味が通じず、「暑いの?」と聞かれてしまいます。

   日本には「手刀(てがたな)」ということばがあります。手や指をまっすぐに揃えて伸ばし、小指側の側面を刀のように使うことで、手は身体に対して垂直になります。相撲で「手刀を切る」といえば、勝ち力士が懸賞を受け取るときの作法で、右手を手刀にして中・右・左の順に切ります。

   日常生活でも、お茶を出してもらったときなどに「すまないね」といった感謝の気持ちを表すためにこの「手刀」を使います。
(2009年3月27日)
ジェスチャーイラスト
『日米ボディートーク』より「手刀」。
「すまないね」「悪いね」といった恐縮している気持ちや感謝の気持ちを表す。





東山 安子(とうやま やすこ) 東京生まれ。日本女子大学大学院・コロンビア大学大学院・シカゴ大学大学院修了。明海大学外国語学部教授を経て、現在、同大学院、立教大学大学院にて教鞭を取る傍ら、異文化間非言語コミュニケーション領域の執筆活動に従事している。



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