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連載「日本のジェスチャー・世界のジェスチャー」 第9回


連載 「日本のジェスチャー・世界のジェスチャー」 東山 安子 第9回 感情表現(2) 「泣く」


   日本では「人前では感情を抑えるのが美徳」とされてきましたが、「泣く」ことについてはどうでしょうか。

   「男は人前では泣くな」ということばがあります。ところが、最近では男性も素直に人前で涙を流すことを良しとする傾向が見受けられます。とくにスポーツ選手の涙はテレビ映像でよく映し出されます。この夏の北京オリンピックの北島選手の涙も話題になりました。スポーツ選手の涙には、メダルを取った喜び、負けた悔しさ、支えてくれたファンへの感謝、自分が成し遂げたことへの達成感など、いろいろな思いが込められています。

   モリス(※第1回参照)によれば、涙を流すのは霊長類の中でも人間に特有なもので、猿や類人猿は泣かないといいます。毛深い猿や類人猿の顔に比べて、人間の顔の皮膚の上では涙がはっきり見えるため、泣くことが視覚的に強力な表現となるのです。

   儀式での悲しみの涙はどうでしょうか。日本では通常、葬式で大声を出して泣くことはためらわれ、きちんと畳んだハンカチでそっと涙を抑える姿がよく見られます。

   一方、中国では、お葬式に大声で泣くことが亡くなった霊を弔うことになるということから、声をあげて泣きます。「泣き女」といって、葬儀で泣く女性を頼むこともあるといいます。韓国も感情表現が豊かな国で、葬儀で悲しみを表すのに声をあげて泣くようです。
(2008年11月25日)
ジェスチャーイラスト
『日米ボディートーク』より「泣く」。
ハンカチを目頭にあてて、そっと涙を抑える。
日本人に見られる抑えた泣き方。





東山 安子(とうやま やすこ) 東京生まれ。日本女子大学大学院・コロンビア大学大学院・シカゴ大学大学院修了。明海大学外国語学部教授を経て、現在、同大学院、立教大学大学院にて教鞭を取る傍ら、異文化間非言語コミュニケーション領域の執筆活動に従事している。



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