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連載「日本のジェスチャー・世界のジェスチャー」 第7回


連載 「日本のジェスチャー・世界のジェスチャー」 東山 安子 第7回 肯定と否定のジェスチャー(3) 「ギリシャの否定」


    頭を左右に振って否定を表す「頭振り」ジェスチャーは世界各地で見られますが、頭を後方へ強く引く「頭上げ」ジェスチャーで否定を表す地域もあります。

   「頭振り」ジェスチャーは頭を横に動かし、「頭上げ」ジェスチャーは、頭を縦に動かすので、頭の動きとしてはかなり異なりますが、モリス(※第1回参照)によれば、どちらも、食べ物を拒否するときに頭を素早く横か上に動かす幼児の動作に由来するといいます。

   頭を横に振る動きは、多くの文化で否定を意味する「頭振り」ジェスチャーとして普及し、そのほかの一部の文化では、頭を上に上げる「頭上げ」ジェスチャーが否定を意味するようになったというわけです。

   「頭上げ」ジェスチャーはほとんどのアラブ社会でみられるとモリスはいいます。ヨーロッパでは通常、「ギリシャの否定」として知られていて、ギリシャ、トルコ、マルタ共和国、シチリア等のイタリア南部で使われます。

   この分布で特に興味深いのは、モリスたちが見出した「ジェスチャー境界線」の存在です。これは、イタリア南部のナポリと北部のローマの間にあるマッシコ山脈のあたりに見出され、この境界線の南側では「頭上げ」ジェスチャーが否定を表し、北部では「頭振り」ジェスチャーが否定を表すというのです。

   同じイタリア国内であるのに、否定を表すジェスチャーが異なるという調査結果は、単純に「○○人のジェスチャー」という言い方でひとくくりにすることの危険性を示唆しています。
(2008年10月20日)

『日米ボディートーク』より「頭振り」。
頭を左右に振って否定を表す。

『ボディートーク 世界の身ぶり辞典』より「頭上げ」。
頭を後方へ強く引いて否定を表す。
  (イラスト:小野原礼子)
 





東山 安子(とうやま やすこ) 東京生まれ。日本女子大学大学院・コロンビア大学大学院・シカゴ大学大学院修了。明海大学外国語学部教授を経て、現在、同大学院、立教大学大学院にて教鞭を取る傍ら、異文化間非言語コミュニケーション領域の執筆活動に従事している。



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