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連載「日本のジェスチャー・世界のジェスチャー」 第8回


連載 「日本のジェスチャー・世界のジェスチャー」 東山 安子 第8回 感情表現(1) 「笑う」


   「笑う」「泣く」「怒る」という感情表現は、人間誰もがもっているものです。

   アメリカの心理学者であるエックマン(※1)とフリーセン(※2)によると、「幸福感」「悲しみ」「恐れ」「嫌悪」「驚き」「怒り」の6つの感情はすべての文化に共通しているが、それらの感情を表すときに「誇張して表す」のか「抑えて表す」のかといった、表出のルールが文化によって異なると述べています。

   日本の文化では比較的、感情を抑えることを美徳としてきました。ドイツや韓国からの留学生との話のなかで、日本の映画館の観客はとても静かであり大声で笑わない、という話がでました。自分たちの国では、映画館での反応は豊かで、おかしければみんな大声で笑うと言うのです。日本人は寄席などではよく笑いますが、映画館では感情表現が遠慮がちのようです。

   声を立てて笑うとき、通常は口を大きく開けますが、日本人女性の多くは、笑いをこらえるため、口の中を隠すため、笑いを上品に見せるために、口に片手を当てて隠しながら笑います。これも抑えた感情表現の一例でしょう。

   一方、調査をしたアメリカ人たちは、男女とも、笑うときは手で口を覆わないと答えました。手で覆うのは、人前であくびをしてしまったり、口の中に食べ物が入っているときだと言います。また、笑うべきときでないときに思わず笑ってしまったとき、例えば相手がことばを間違えたときとか、相手の不幸に対して思わず笑ってしまったときなど、自分が笑ってしまったことに対する当惑から手で口を抑えるといいます。
(2008年10月27日)
※1…ポール・エックマン(P. Ekman)
アメリカの心理学者。感情生理学と非言語コミュニケーションの専門家。

※2…ウォレス・フリーセン(W.V.Friesen)
アメリカの心理学者。書籍の共同執筆などエックマンとの交流も深い。
ジェスチャーイラスト
『日米ボディートーク』より「口に手をやる(+笑顔)」。
笑うときに片手を口にもっていき、口を隠す。
日本女性が多く使うしぐさ。
ジェスチャーイラスト
『日米ボディートーク』より「口抑え」。
片手で口を隠す。笑うべきではないときに笑ってしまったとき。
アメリカ人女性の当惑のしぐさ。
 





東山 安子(とうやま やすこ) 東京生まれ。日本女子大学大学院・コロンビア大学大学院・シカゴ大学大学院修了。明海大学外国語学部教授を経て、現在、同大学院、立教大学大学院にて教鞭を取る傍ら、異文化間非言語コミュニケーション領域の執筆活動に従事している。



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