ことばパティオ

連載「世界ことば巡り」 第2回(全12回)


連載 「世界ことば巡り」 西江雅之 第2回 「語族」という考えかた


   現在、地球上で話されている言語は、7,500種を優に超えるとされる。

   しかし、その多様性にもかかわらず、人間の言語であるならば如何なるものであれ、そのありかたはある程度は見当がつく。まずほとんどすべての言語では、種類にして30種から40種ほどの音声を、意味単位(単語など、意味を表すひとつのまとまり)を支えるものとして使い分けているだけである。

   音声の連鎖のありかたには様々あるが、如何なる言語にもその音声の連なりで形成されている意味単位が見出され、その意味単位をつなげてひとつの言語表現とする。こうした基本的な構成は如何なる言語にも共通する。また、多数の言語があると言っても、その一部は歴史的に見れば互いに親類同士とも言えるものであることが分かる。それが「語族」と呼ばれるものである。

   しかし、このような考えかたの根底にあるものは、19世紀後半に注目を浴びた、チャールズ・ダーウィンを中心とした動物の進化論である。もし、言語が動物の進化のように整然と枝分かれをしてゆくものならば、現在のところまだ類縁関係が分からない語族も、いつかは親類関係にあることが分かるかもしれない。さらに研究が進めば、やがては多数の語族も元はひとつであったということにもなるだろう。「一言語起源論」である。

   しかし、もし地球上の多数の言語が単一の起源を持つとするならば、その逆はどうだろうか。樹状図の根元を探るのではなくて、枝先を見てみよう。枝というものは無限に分かれてゆく。そうであるならば、いつの日か、人間は一人ひとり異なった言語を話すようになるということになってしまうが、そんなことはおよそ現実的ではない。言語は生物ではなくて、文化的なものである。枝分かれと同時に、異種間の接触、融合も普通に行われる。

   意味単位や文法構造が非常に大きく異なった2種以上の言語の接触は、新たな言語を生み出すこともある。そうした生み出された新しい言語が、「ピジン語」とか「クレオル語」と呼ばれるものである。
(2009年5月25日)
ことば巡り
パプアニューギニアのヒリ・モトゥ祭り(Hiri Moale Festival)は、海の大きなお祭り。
ヒリ・モトゥ(Hiri Motu)語は、トク・ピシン(Tok Pisin)と並ぶ、同国の二大共通語のひとつです。




西江 雅之(にしえ まさゆき) 1937年東京生まれ。専門は文化人類学・言語学。現在、アジア・アフリカ図書館館長。著書に『花のある遠景』(福武書店)、『伝説のアメリカン・ヒーロー』(岩波書店)、『「ことば」の課外授業―“ ハダシの学者”の言語学1週間』(洋泉社)、『異郷日記』(青土社)、 『アフリカのことば』(河出書房新社) など。


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