ことばパティオ

連載「世界ことば巡り」 第10回(全12回)


連載 「世界ことば巡り」 西江雅之 第10回 ナゾナゾは謎ではない


   「ことば遊び」は子どもだけのものとは限らない。その良い例が、ナゾナゾだ。

  ナゾナゾは、特殊な仲間内や、ある種の宗教集団などでも使われ、同じ集団の仲間であることを示すパスワードの役割を果たすことがある。また、子どもの場合は、母語の習得や記憶力の訓練としても使われる。

   しかし、ナゾナゾが、幼児の想像力を育てるわけではないと言えば、多くの人は不思議に思うだろう。なぜならば、ナゾナゾは、問いに対して、想像力を働かせて答えるものだという思い込みがあるからだ。

   「わたしの家には窓も戸もない。なーに?」というナゾナゾの答えとして、「前衛建築家が建てた家」というのは、答える者の想像力から言えば正しいだろう。しかし、ナゾナゾとしては、この答えは間違いだ。正解は「タマゴ」なのだ。なぜならば、そのように答えることが前もって定められているからである。すなわち、ナゾナゾは、百人一首の遊びのように、上の句が与えられれば下の句を言うという種類のものなのだ。

   世界のナゾナゾを見てみると、「……なーに?」という形式を持たない例が沢山見つかる。たとえば、「始めます」と誰かが言ったあとに「……です」と言う。すると、答える側が「……です」と答えを言うのである。その問いの部分は数単語でできているものから、文字で書けば数十行にもなる長いものまでがある。

   また、単語が高低、高中低のような声調に規制されている言語では、声調ナゾナゾとも言えるものがある。東京方言で例を示せば、「きのう、なに(・.)を食べた?」の答えは「牡蠣(・.)」となる。なぜならば「柿」では、「.・」となってしまうからだ。「蕎麦(・.)」、「ねぎ(・.)」でも、理屈の上では正しいのだが、先ほど述べたように、答えはもともと決まっているものだけが正しいとされるのだ。

   ケニアのカンバ人のなかで滞在していた頃、世界でもっとも短いナゾナゾに出会った。「ア!」だけの一音ナゾナゾだ。答えは、「荒野で、やっと水を見つけた」。「ス!」の答えは、「裁縫をしているとき、針を落とした」。

   深く考えないで欲しい。答えは、そのように決まっているので、知っているかどうかが大切なのである。

(2009年9月24日)
ことば巡り
国境の町ティフアナ(メキシコ)では、
道行く人に何事かを語りかける女性の像があった。




西江 雅之(にしえ まさゆき) 1937年東京生まれ。専門は文化人類学・言語学。現在、アジア・アフリカ図書館館長。著書に『花のある遠景』(福武書店)、『伝説のアメリカン・ヒーロー』(岩波書店)、『「ことば」の課外授業―“ ハダシの学者”の言語学1週間』(洋泉社)、『異郷日記』(青土社)、『アフリカのことば』(河出書房新社)など。


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