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連載「日本のジェスチャー・世界のジェスチャー」 第12回


連載 「日本のジェスチャー・世界のジェスチャー」 東山 安子 第12回 日常のしぐさ(2) 「立つ」


   「立つ」という日常のしぐさも、万国共通のようでありながら文化の影響を多分に受けています。

   面接のとき、リラックス感より緊張感を重要視し、きちんとした姿勢を重んじる日本の傾向は、座りかたばかりでなく、立つことについても同じことが言えます。面接の練習では、部屋に入ったら両腕を身体にぴたりとつけ、足を揃えて背筋を伸ばすようにして自分の名前を言うように指導されるでしょう。

   しかし調査をしたアメリカ人たちからは、この立ちかたは軍隊で命令を聞いているときの姿勢のようだとの意見が多く寄せられました。モリス(※第1回参照)は、「カチッと音を立てて踵(かかと)を合わせ、両足をぴたりと合わせる」立ちかたの起源は軍隊の動作で、将校が近づいてきたときに起立して姿勢を正す動作の一部であると述べています。

   この動作についてモリスは、軍隊的な感じはするものの、「尊敬」をあらわす正式な挨拶として一般の市民生活で使われている地域もあるが、ドイツ、オーストリアや、アルゼンチンなど特定の南アメリカの国々に限られると述べています。日本では、一般の市民生活で音を立てて踵を合わせることはしないでしょう。

   アメリカでは、身体をまっすぐにしながらも両足の間隔を少し開ける、腕は両脇に軽く下げるなど、笑顔でリラックスした姿勢を取るのが通常のようです。もともと腰かけていた場合には、立ち上がること自体が敬意を表すことになるといいます。ドイツ人の学生から聞いた話では、ドイツではカップルでレストランに行き、女性が席を立つとき、たとえばトイレに立つときでも、男性は立ち上がることが礼儀とされるようです。日本でも立つことで敬意をあらわしますが、ここまで徹底されてはいないのではないでしょうか。
(2008年12月25日)
ジェスチャーイラスト
『日米ボディートーク』より「直立不動」。
両腕を身体の脇につけ、姿勢を正して立つ。
日本のフォーマルな場で求められる立ちかた。
女性は手を前で組むこともある。





東山 安子(とうやま やすこ) 東京生まれ。日本女子大学大学院・コロンビア大学大学院・シカゴ大学大学院修了。明海大学外国語学部教授を経て、現在、同大学院、立教大学大学院にて教鞭を取る傍ら、異文化間非言語コミュニケーション領域の執筆活動に従事している。



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