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連載「日本のジェスチャー・世界のジェスチャー」 第10回


連載 「日本のジェスチャー・世界のジェスチャー」 東山 安子 第10回 感情表現(3) 「怒り」


   前回の「泣く」と同じように、「怒り」の表情も総じて日本人は控えめです。

   一方、アメリカ人は表情が豊かで、顔を見ただけでも怒りの感情がよく伝わってきます。たとえば、アメリカ人は「かなり大きく目を見開いて」怒りを表します。「歯をむき出して」怒る表情も使われます。いずれもとても激しい怒りの表情で、日本人にはあまり見られない表情だといえましょう。

   怒りを表すときの視線の使い方も日本とアメリカで対照的です。日本人は、怒って相手と口をききたくないとき、腕を組んで相手に背を向ける、つまり「視線を合わせない」ことが多々あります。これに対しアメリカ人は、逆に「お互いの顔をかなり近づけてにらみ合い」、激しく口論することが多いようです。

   怒りにともなうジェスチャーには、日本とアメリカで共通のものもあります。ひとつは「腰に両手をあてる」ジェスチャーで、調査をしたアメリカ人たちはよく使うと答えました。日本でも腰に両手をあてて子どもを怒っている母親をよく見かけます。韓国でも怒るときには腰に手をあてるといいます。モリス(※第1回参照)によると、マレーシアやフィリピンでは非常に激怒している合図としてこのジェスチャーが使われているようです。

   怒って腕を組む行為も、日本とアメリカともに使われます。ところがモリスは、表情は異なりますが、腕を組むのは「防御のサイン」であるといいます。また、ミャンマーからの留学生は、教師の前で話を聞くときに「敬意を表す」ために腕を組むと話してくれました。ジェスチャーは顔の表情とともに使われるものですから、文化による違いも然ることながら、ともなう表情によっても意味がさまざまに変化します。
(2008年11月28日)
ジェスチャーイラスト
『日米ボディートーク』より「むき出し歯」。
上下の歯を噛み合せ、口を横に開いて歯を見せる。
アメリカ人に見られる激しい怒りの表情。
ジェスチャーイラスト
『日米ボディートーク』より「腰に手をあてる」。
怒りの顔の表情とともに腰に両手をあてる。
相手に対する憤慨を表すジェスチャー。





東山 安子(とうやま やすこ) 東京生まれ。日本女子大学大学院・コロンビア大学大学院・シカゴ大学大学院修了。明海大学外国語学部教授を経て、現在、同大学院、立教大学大学院にて教鞭を取る傍ら、異文化間非言語コミュニケーション領域の執筆活動に従事している。



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