ことばパティオ

連載「世界ことば巡り」 第11回(全12回)


連載 「世界ことば巡り」 西江雅之 第11回 危機に瀕した言語


   現在、地球上で話されている言語は、約7,500種類、あるいはそれ以上とされている。

   なかには英語や中国語のように、億単位の話者を持つ言語が幾種類もあるいっぽうで、わずかひとり、ふたりしか話者が残っていない言語も幾例かある。後者の人びとは、母語で話せる相手がいないからと言って、黙っているわけではない。会話をする際には、自分の母語ではなくて、周囲で話されている言語を用いているのである。

   わたしが1960年代の後半を過ごしたアメリカのカリフォルニア州だけでも、ネイティヴ・アメリカンが母語として話す言語が45種ほど残っていた。しかし、それらの言語の話者は、ほとんどが80歳を超える人びとだ。現在では、それらの“危機に瀕した言語”も半滅してしまっているだろう。そして、今から2、30年後には、それらすべての言語が地球上から消え去ってしまうのではないかと危惧されている。

   ある程度の規模を持つ言語には、そのなかに幾種かの地方語(方言)が見られるのが普通である。そのうちのある方言を別の言語であるとすべきか否かは、いつも問題になることだ。

   日本の場合、アイヌ語を除けば、国内で話されている言葉は、本土方言(九州、四国、本州、北海道)と琉球方言(奄美諸島、沖縄諸島)の二大方言に大別できるとする説がある。また、それらは日本語と琉球語という異なる二言語であるとする説もある。後者の説に立って、琉球語をひとつの言語として見てみることとする。すると、現在でも琉球語の話者の数は非常に多いとはいえ、マスメディアなどによる日本語の標準語からの影響を強く受けており、急速に減少しつつある“危機に瀕した言語”の一例であるということになる。

   絶滅の危機にさらされている言語とは、必ずしも話者の数があと数人といったものだけではない。現在は話者が数万、数十万人いたとしても、急速に減少しつつある状態にある言語をも含むものなのだ。

(2009年10月19日)
ことば巡り
パプアニューギニア高地にて。“危機に瀕した言語”の話者と町で出会った。




西江 雅之(にしえ まさゆき) 1937年東京生まれ。専門は文化人類学・言語学。現在、アジア・アフリカ図書館館長。著書に『花のある遠景』(福武書店)、『伝説のアメリカン・ヒーロー』(岩波書店)、『「ことば」の課外授業―“ ハダシの学者”の言語学1週間』(洋泉社)、『異郷日記』(青土社)、『アフリカのことば』(河出書房新社)など。


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